公的責任の原則(国家責任の原則・公私分離の原則)

課題

第二次世界大戦後の日本の社会福祉における公私分担のあり方に影響を与えた「GHQ三原則」のうちの一つ「公的責任の原則」(国家責任の原則・公私分離の原則)について説明し、この原則が社会福祉法人制度の創出に及ぼした影響を論じなさい。

例文

 第二次世界大戦で敗戦した日本で暮らす多くの人々は、著しい困窮に晒されることになった。これを改善することが社会福祉の第一義的課題であった日本において、1946年に公布され1947年5月3日に施行された日本国憲法は、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を謳い、恩恵的な土壌のなかであった従来型の社会事業を、社会的責任や、人権、民主主義、平和思想に基づく社会福祉へと前進させた。特に、憲法第13条の幸福追求権、憲法第25条の生存権は、日本の民主化を加速させる役割を果たし、これが戦後の社会福祉の出発点であったといえる。
 そして、これらを先導したのは、終戦から1952年4月まで、非軍事化・民主化を基本方針としたGHQによる統治であり、その中でGHQは、[無差別平等の原則][公的責任の原則][必要充足の原則]を「社会救済に関する覚書(SCAPIN775)」により示した。 
 その覚書中の公的責任の原則には、[国家責任の原則]と[公私分離の原則]という、二つの側面があった。前者は、厚生省(当時)を頂点として、都道府県・市町村を実施機関とする中央集権的な社会福祉行政の体系を以て、社会福祉における国の責任を確立しようする、国家責任の原則という側面である。後者は、日本国憲法第89条の規定ともあいまって、公の支配に属さない教育、慈善、博愛の事業に対しては公金の支出を禁止した、公私分離の原則という側面である。これら二つの側面をあわせて考えるに、「社会福祉はすべて国の責任において達成し民間に転嫁しない」というものが、「公的責任の原則」の説明となる。
 こうした公的責任の原則だが、しかし現実には、政府セクター独力での、戦後混乱当時の社会福祉需要への完全な対応は困難で、それまで事業を提供していた民間セクターへ依存せざるを得ない状況もあった。さらに、民間セクター側の多くも、公費補助金等を得られず運営に難を抱える状況へ陥る等により、結果として充分な社会福祉提供に影響が出ていた。
 そのような中、1949年にGHQより示された「昭和25年度において達成すべき厚生省主要目標及び期日についての提案」を契機として、1951年には社会福祉事業法(現・社会福祉法)が成立する。この中で、公の支配に属せる要件としての強い公的規制を受ければ、助成を受けられる特別な法人として、社会福祉法人制度が創設される。これにより日本国憲法第89条における「公の支配に属しない民間社会福祉事業に対する公金支出禁止規定」を回避できるようになるとともに、「措置制度」と呼ばれる行政機関の行政行為に基づいた社会福祉事業の仕組が成立することとなった。
 こういったように、公的責任の原則内の公私分離の原則によって、充分な社会福祉提供が困難となりかねない状況を解決する必要が発生したこと、これが社会福祉法人制度の新設へと影響を与えた。

参考文献

社会福祉法人の在り方研究会報告書 大阪府社会福祉協議会 出版年度不明
http://www.osakafusyakyo.or.jp/tosho/arikatahoukoku.pdf

社会保障制度の変遷 厚生労働省 出版年度不明
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000166513.pdf

希望社会の実現のため、社会保障のグランドデザイン策定を求める決議 日本弁護士連合会 2011年
https://www.nichibenren.or.jp/document/civil_liberties/year/2011/2011_1.html

厚生労働省白書 厚生労働省 2012年
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/12/dl/1-01.pdf

社会福祉法人制度の在り方について 厚生労働省 2014年
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12004000-Shakaiengokyoku-Shakai-Fukushikibanka/0000050269.pdf

生活保護と福祉一般:社会福祉法人 厚生労働省 出版年度不明
https://www.mhlw.go.jp/bunya/seikatsuhogo/shakai-fukushi-jigyou3.html

共同募金Q&A 土別市社会福祉協議会 出版年度不明
http://www.shibetsu-shakyo.jp/html/kyodobokin/kyodobokinqa.shtml

憲法 89 条後段と公私分離について 1  國見真理子 平成29年田園調布学園大学共同研究助成による研究成果 2017年
https://www.google.com/url?q=https://researchmap.jp/kunimi/published_papers/15620384/attachment_file.pdf&sa=U&ved=2ahUKEwityqrbsK33AhVjy4sBHbT8ClsQFnoECAkQAg&usg=AOvVaw2LyRk9R4mbESGxH_XO3BPe